榊原英資の郵政民営化批判

gladson2009-02-16


小泉首相郵政民営化は知的詐欺」―榊原英資氏への当時のインタビュー(JANJANより)

 「ミスター円」として知られた元大蔵省財務官の榊原英資慶應義塾大学教授は、05年に小泉首相が持ち出した「郵政民営化」法案は「民営化でも何でもない」「事実上の国営業務の拡大に過ぎず」「小泉首相は知的詐欺」と厳しく批判していた。今や麻生首相までが見直しを言い出す郵政民営化について、当時のインタビュー記事を再録する。

 メディアが「刺客」で大騒ぎした2005年9月11日の衆議院選挙。取材するメディア自体は「郵政民営化」を分かっていたのかどうか。理解していなかったらなぜ取材しなかったのか。郵政民営化に賛成した国民は、「民営化」をまったく理解していなかった。最近になって麻生首相自民党幹部まで賛成でなかったと言い出す始末だ。

 次は05年9月11日に投票が行われた「郵政民営化選挙」の直前に榊原英資氏にインタビューした記事だ。この記事を少し短くしたものがアメリカのワシントン・タイムズ紙に掲載された。小泉首相の「郵政民営化」なるもののまやかしをいち早く喝破したこの記事を再録することに、今日的意義もあるだろう。残念ながら、郵政民営化に批判的だった日本の新聞はこの記事の掲載を拒否したのだから。(記事中の役職は05年9月当時のもの)
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 榊原英資氏:小泉首相がおこなっていることは「知的詐欺」(2005年9月9日)

 「ミスター円」として知られた元大蔵省財務官で現在慶應義塾大学教授、同大学グローバル・リサーチ・セキュリティ・センター所長である榊原英資氏は、小泉純一郎首相に「非常に怒っている」と言う。民営化でないものを「民営化」とごまかして、民営化に賛成かどうかで選挙をするなどとは、「知的詐欺」だと言葉を荒げる。以下は榊原氏とのインタビューだ。

 Q:小泉氏の「郵政改革」をどう思われますか?

 A:まず最初に、現実問題として問われているのはあの法案に賛成かどうかなのです。選挙に勝てばあの法案を出すわけです。あの法案がどういう法案かということをまず知らなければいけません。民営化法案ではないのです。

 なぜかというと、例えば、郵便事業に関してはネットワークを全部維持すると言っているわけです。それから、雇用はいじらないと言っています。民営化して雇用の調整もできないし、ロケーションの調整もできない。当然のことながら、過疎地とか離島の郵便局は維持するわけでしょ。維持すると赤字が出ますよね。赤字を補填するために2兆円を積むと、つまり、公的資金を2兆円投入するということです。もともと2兆円の公的資金の投入を予定する株式会社などどこにありますか? それが「民営化」だなんてまったくおかしい。

 2点目は、民営化すると何が起こるかというと、貯金業務は銀行法の対象になるわけです。保険業務は保険業法の対象になるわけです。銀行法保険業法では他業の禁止というのがあるのです。つまり、貯金をやっているところは郵便事業ができないわけです。貯金をやっているところは保険事業ができないのです。

 だから、分社化しなくてはいけない。法律に違反するから分社化せざるをえないのです。ところが、分社化すると言っておいて、一方で一体化して運営すると言っています。どうやるのですか? 分社化しておいて、一体化して運営したら、これは法律違反になります。この法案はそこの問題が解決していないのです。これは民営化ではありませんよ。

 それからもう一つ、当面は株を100%国が持つのです。最終的には3分の1の株を国が持つのです。おそらくこれは国民に広く売るでしょうから、3分の1持っていれば、国が筆頭株主として会社をコントロールできます。つまり、これは国営会社のままということです。そういうディテール(細部)をちゃんとチェックしないで、民営化すべきかどうかと議論してもしょうがない。

 この法案は民営化法案ではないのです。結果として何が起こるかというと、事実上の国営のままの業務の肥大化が起こるのです。小泉氏はこれらをわかったうえで、民営化か民営化じゃないかと言っているわけですよ。あの法案に反対した「守旧派」と言われている人たちはそれを分かっているのです。小林興起氏などは分かっているが、小池百合子氏は分かっていません。

 こういう実態をちゃんと報道してほしい。法案を読んでくれればそう書いてあります。2兆円の基金を積みます、しかも、ネットワークは維持します、と書いてある。雇用は減らしません、と言っているわけです。株式は3分の1最後まで持ちますと書いてある。そんな民営化がどこにありますか? 私は民営化がいいと言っているのではない。これは民営化法案ではありませんと言っているのです。事実上の国営業務の拡大です。むしろ、お金が民から官に流れるわけです。

 私は今、非常に怒っている、民主党を支持するとかそういうのではなくて、要するにインチキなんだ。知的詐欺だ。「民営化する」と言っておいて、民営化していないのは知的詐欺だ。3分の1の株を国が持っているところが、民営化企業ですか? 国が圧倒的筆頭株主ですよ。

 Q:純粋な郵政民営化が可能ですか?

 A:私は民営化には反対です。純粋な民営化は非常に難しいのです。日本の場合、無人島まで含めると6,852島あるのです。そのうち、人間が500くらいの島に住んでいます。そのうち、300くらいが離島です。それから、日本というのは山間僻地が多いですから、これがやはり、200や300くらいあります。民営化するのであれば、採算の取れないところはやめなければならない。

 ですから、純粋に民間企業化した時に廃止しなくてはいけなくなる郵便局というのが、500くらいあります。これができるかどうかという話なのです。おそらく国としてはできないでしょう。要するに、これらの地域の郵便局を維持しようと思ったら、郵便事業は民営化できないのです。だから、私は、郵便事業は民営化できませんよと言っている。

 それから、もう一つ、貯金と保険は論理的には民営化できます。ただ、貯金は210兆円あります。それから、保険は130兆円くらいあるわけです。民営化した場合には世界最大の銀行になるわけですね。その世界最大の銀行を稼働させたときにいったいどうなるかというと、巨大な影響がでるわけです。郵便局のネットワークは地方に多いわけですから、地方に大きな影響が出ます。信用金庫、信用組合とかと競争することになります。すると、地方金融機関の再編を促すことになるわけです。

 例えば、シティ・バンクが日本に2万の支店を持ったと考えてください。しかも、事実上、国のバックがあるわけですから、預金者獲得競争をやり出したらそりゃあ勝てますよ。結果としては、地方の金融機関がバタバタ倒れることになるでしょう。巨大すぎて民営化がなかなかできないわけです。民営化すると言うのなら、最初に縮小しなくてはいけない。民主党案はそれです。

 つまり、徹底的に議論した末、民営化できないというのが結論なのです。だから、民営化しないような法律になっているわけです。あれは民営化の法律ではないのです。それが現実なのです。それで民営化かどうかを問うために、衆議院を解散して民意を問うなんていうのは狂っている。非常にインチキな選挙なのだけど、それがまかり通っている。許せないことです。

 どの党がどうだと言うつもりはまったくありません。いろいろな立場があっていいと思います。それが民主主義ですから。ただ、民営化でないものを民営化だと言ってはいけません。知的詐欺はいけません。

 Q:それでは、今、国がまず取り組まなければいけない問題とは?

 A:財政再建です。そして、財政再建の一つのポイントは年金であり医療なのです。だから、経済では財政再建、年金、医療なのです。外交でいうと、アジア外交です。その2つが非常に重要なのです。このまま財政再建できなければ、日本は5年から10年の間に沈没になってしまいます。

 今までのところは、個人の貯蓄の資産が1,400兆円あります。その範囲で赤字がおさまっています。(国の借金は)だいたい800兆円ほどだと言われていますね。だけど、どんどん増えているわけですよ。個人の資産は目減りするわけですから、どこかでクロスすると日本は破綻です。このままだと国家破産が5年から10年後に来るでしょう。