小説東京帝国大学と映画:グッドバイ、レーニン

gladson2008-06-16

6月16日(月) 晴れ
25℃、54%、No Set
20℃(朝外気温)、23℃(朝室温)、25℃(外気温:13.00)



今日もまだ、足が少しだるく、風邪気味が残るので、家でぶらぶらする。


松本清張「小説東京帝国大学、上、下(ちくま書房;2008年3月10日発行、初出1969年12月)」をやっと読み終わる。


私たちが漠然としか分からない、明治後期の政治の世界を小説の形で、比較的明瞭に教えてくれている。明治後期の東京帝国大学に焦点を当て、官尊民卑を作り出し、権威社会主義的な社会集団をはびこらせている日本システムの原点をあぶり出しているといえよう。

冒頭に、哲学館(東洋大学の前身)問題が出てくる。これは、英人ムイアヘッドの倫理学教科書の通りに書いた「動機が善であれば、殺逆も悪ではない」を含む答案に最高点を与えたという理由で、哲学館の中学教員無試験免許が取り消されたということで、社会問題になった事件である。ここに、文部省の私学排除の意向が働いていると批判を加えている。

続いて帝大7博士による日露開戦論、日露戦争講和にからむ賠償不満騒動問題などで、帝大教授が政治の場に積極的に動いた。

小学校の国定歴史教科書を文部省が作成する段階での、南北朝正閏問題は圧巻である。すなわち、この草案委員会では、南朝を重視するあまり北朝の存在を抹消したのを、元帝大総長山川、加藤の反対で従前どおり南北朝併立に復している。これを知って元老山縣は怒った。それでは、尊王南朝)攘夷を唱えて明治維新を成し遂げた山縣たちの面目が丸潰れだからだという。結局、南朝が正統であるとして政治決着したという。


私の中学時代に、国史の先生が、教科書どおり「足利尊氏は大悪人である」と教えた後、「実は北朝が正統だという説がある。今上天皇北朝の出なんだよ」と小さい声でつぶやくように遠慮しながら語ったのを「おかしいなあ!」と思いながら聞いたのが、今でも、かすかに耳に残っている。案外こういう点には敏感な少年だった。
明治時代は、あの大戦前、戦中よりも、天皇問題に関して言論の自由があったようである。勿論一定の制限の下ではあるが。

松本清張は、この小説で、戦前の政党政治がうまく機能しなかったのは、主権が国民でなく、天皇にあったからだ、と教えている。



録画で、映画「グッドバイ、レーニン(2004年)」を視る。
ベルリンの壁崩壊という大事件を舞台にした、一見、たまらなく健気で切ない家族の物語である。しかし見ようによっては、嘘で固められた映画である。
以下は、荒筋である。:
アレックスの母、クリスティアーネは、理想主義的な熱烈な共産主義者であった。
夫が西側へ亡命して以来、祖国・東ドイツに忠誠心を抱いている。建国40周年を祝う夜、クリスティアーネは、アレックスがデモに参加している姿を見て心臓発作を起こし、昏睡に陥ってしまう。意識が戻らないまま、ベルリンの壁は崩壊、東西ドイツは統一される。8ヵ月後、奇跡的に目を覚ました母に再びショックを与えないため、アレックスはクリスティアーネの周囲を統一前の状態に戻し、世の中が何も変わらないふりをしようとする。そのために、母の死まで母の周りを嘘で固めてしまうという工作をする。本当にこんなことができるのかと思わせるほど、ユーモラスに描かれている。一方母のクリスティアーネも、「夫が女を作って西側に亡命した」と言っていたのは嘘で、「党員でない夫は出世が遅く、妻に見くびられていたので、西側に出張の際に亡命したのだ」と、真相を告白する。

官僚国家日本の原点を作った明治の元勲山縣有朋は、日本のレーニンに当るかもしれない。