自民党は、なぜ惨敗したのか

少し和らいだ残暑の中、「官邸崩壊:安倍政権迷走の一年」を一気に読み終えた。下手な小説よりもリアリティがあって面白い。230頁におよぶ長い内容を全て再現することはできないが、要するに、側近・・・特に塩崎官房長官、井上首席秘書官、世耕補佐官(広報担当)の間に連携がなく、補佐官制が全く機能していなかったために、官邸は制御不能になったということのようだ。小泉と違って、優しい安倍の性格もマイナスに働いたそうである。


一方「中央公論:9月号」で、加藤紘一自民党幹事長は、「なぜ、惨敗したのか、それは年金記録漏れに対する怒りなどという単純なものではない。このまま、議員の“言論の自由”を圧殺すれば、自民党は早晩、野党に転落する」と警告を発している。

今回の選挙は、自民党の抱える大きな問題が一挙に表面化した時期にあたったのだという。

一つ目は、「郵政選挙で自民に議席を与え過ぎた」と有権者は内々思っていた。ところが安倍首相はそうした国民の空気を読めていないばかりでなく、小泉前首相と同じように「安倍流」の政治を強く押し出せば国民に受けるぞ、と勘違いしてしまった。そして度重なる強行採決を行った。それで、有権者は「ああ、やはり想像していた通り、恐ろしいことになってしまった」と、さらに深く反省するようになった。そういう時期にあたる選挙だった。
二つ目は、自民党は、既に10年ほど前から組織の弱体化が始まっていたが、ここにきてその弱点が一気に表面化したということだ。小選挙区制に加えて、市場原理主義の導入によって、自民党代議士を支えていた個人後援会が弱体化してしまった。
三つ目は、安倍氏が主張する「価値観外交」の根底には、反共主義が見え隠れする。しかし、それはもう古い。


一方、今日の新聞に、自民党参院選総括(要旨)が載っていた。更に要約すると、
敗因の分析:
(1)逆風3点セット・・・「年金記録漏れ問題」「政治と金の問題」「閣僚の失言不祥事」が国民の大きな怒りと失望を買った。
(2)国民の意識とのズレ・・・安倍総理が一般国民の側でなく永田町の政治家の側に立っているようなイメージを持たれた。「美しい国」や「戦後レジームから脱却」という訴えを争点に設定できず、「生活が第一」とした野党キャンペインに主導権を奪われた。
(3)衆院選大勝の反動と政権運営・・・数にまかせた強引な国会運営を行っているとの印象を与えた。
(4)地方の反乱
(5)支持基盤の弱体化
今後の課題:
(1)内閣のあり方・・・国民の目線に沿った政権運営や官邸・内閣の危機管理の強化。
(2)厚みのある構造改革・・・地方や弱者が抱えている痛みを解消するための将来展望を具体的に示す。
(3)広報戦略の方向
(4)候補者のあり方・・・公認決定を前倒しし、早めに選挙態勢に入れるよう検討する。
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自民党はまたもや、野党の公約を盗んで盛り返しを図っている。20世紀末頃に民主党が盛んに主張していた「改革」を、小泉は巧みに盗んで、有権者の心を掴むのに成功した。その昔は、社会党の「福祉」を盗んで生き延びた。
公約の泥棒は法に触れないので、どうしようもない。