ニューヨークの日本人

今日の夕刊に、盆休みで人影が少ない東京駅丸の内口の写真が出ていた。毎日が日曜日だと、サラリーマン時代の大いなる楽しみだった盆休みがあることを忘れてしまう。

本田靖春著「ニューヨークの日本人」(講談社文庫:昭和56年発行)を読んで、30年ほど前の昔のニューヨークに旅したような気持ちになった。

ニューヨークでは、ヘルシーで、高タンパクの日本食レストランが大繁盛しているそうだ。しかも段々高級化して、遂に天皇陛下も泊まられたという最高級ホテルのウオルドーフに、東京・日本橋天ぷらの老舗「稲ぎく」が入った。「稲ぎく」は別として、日本食レストランの料理場を支えている(皿洗いなど)のは、古ぼけたホテルの1部屋を4人で占めて、豚小屋みたいな所に住んでいる英語も碌に分からない不法滞在の日本の若者だという。世界をうろついている彼ら“無目的人間”は、冬になるとニューヨークに流れてくる。翌春までに2千ドル程度のまとまったものを掴むと、ヨーロッパなり中南米なり、自分の気の向く土地へと去って行く。それで日本食レストランは移民局に目をつけられ頻繁に手入れを受けているそうだ。今の日本に不法滞在している外国人を思い起こさせる。

すし屋の経営者だと名乗る男性は「ニューヨークがこわいというけれど、日本の方がよっぽどこわい。三菱重工の爆破だなんて、冗談じゃない。こっちには、あんな事件はないもの」と言っていたそうだ。9.11テロが起こる前の呑気な話である。

しかし、ニューヨークは自由で、夢をかなえてくれる都市と賛美してから、最後の章では「犯罪都市ニューヨーク」として、住んでみての怖さは、日本では想像もつかない程度であることが述べられている。当時はベトナム戦争末期で、アメリカの人心が荒れていたために、このように危険だったのだろう。今は大分治安が良くなっているらしい。