ピカレスク:太宰治伝

「今日は、お稽古ごとのご師匠さんの誕生祝いで遅くなるから、夕食は適当にしておいて」と言って、家内は早くから、いそいそと出て行った。残った私は、真夏日の中T医院へ何時もの薬を貰いに行き、帰り途お惣菜屋によって一番高いお弁当(といっても千円以下)を夕食用に買った。帰宅してから、“この暑さで、お弁当痛まないかな”と心配になった。それでお弁当を昼に食べることにして、夕食は、いつもの昼飯のパン食にすることにした。そしてテレビを視たりと、鼻風邪あがりの静かな日常を過ごした。
どういう訳か、昼間は本や雑誌を読む気がしない。昼寝をすると、家内は「寝過ぎるのでないか」と五月蠅い。それで外出が続くと「出過ぎ」と言う。一々言う通りにしていたら立ち往生する。今日は何をしようと自由だ。解放された気分。


という訳で、ぼつぼつ読んでいた猪瀬直樹著「ピカレスク太宰治伝」の500頁を越える文庫本の大作をやっと読み終えた。ノン・フィクションのようだが、一部にフィクションが混じっているような気がする。面白い。

太宰には「人間失格」という有名な小説があるが、本人は正真正銘の、“人格を失った人間“であることが強く印象つけられた。このような‘人間’に偶々係わった人たちは気の毒である。戦後に売れっ子作家になってから玉川上水で山崎富栄と心中するまでの間の、酒びたりの滅茶苦茶な生活に身の毛がよだつ。幼子を3人も抱え、生活に苦しむ正妻石原美知子をほったらかしにして、一方小田原近郊には治子を産んだばかりの「斜陽」のモデルとなった愛人太田静子が待っているにもかかわらず、秘書か愛人か分からない富栄と爛れた日常を過ごす。
朝日新聞に連載を始めた小説「グッドバイ」が命取りになった由。「グッドバイする10人の女性モデルの中、最初に”グッドバイ“する女性のモデルが私の境遇そっくり」と富栄が太宰を責める。いっちもさっちもいかなくなって、心中に追い込まれたというのが、真相のようである。この小説を以前に読んだことがある。その時は人間の真実をユーモラスに描いた良い小説だが、中断して、先が読めないのが惜しいと残念がったものである。改めて「人間失格」、「斜陽」、「グッドバイ」などを、ぼつぼつ読んでみようと思う。