道路公団民営化

7月には珍しい超大型台風4号(最大瞬間風速65kmともいわれる)が、刻々と当地に向ってゆっくり進んでいる。すでに沖縄や九州南部では大被害を齎したと、テレビニュースは生々しく報じている。

この数日間、梅雨模様のため外出もほとんどできないので、猪瀬直樹氏の「道路の権力」を読んだ。文庫本ではあるが、500頁におよぶ大作なので、ほぼ3日かかってやっと読み終えた。簡単にいえば委員だった猪瀬氏による、2002年の道路公団民営化委員会の内幕話であるが、当時報じられた情報で今も断片的に記憶に残っている逸話、例えば今井委員長の辞任や石原行革担当大臣の弱腰などが、この本の中で一本の太い糸でドラマチックに結ばれている。

著書の最後で、小泉首相に任命された7人の侍――今井敬委員長(新日鉄会長)や中村英夫委員(武蔵工業大学教授)、松田昌士委員(JR東日本会長)、田中一昭委員(拓殖大学教授)、大宅映子委員(ジャーナリスト)、川本裕子委員(マッキンゼー&カンパニー シニア・エクスパート)および猪瀬直樹(作家)の中、答申の取りまとめをめぐり辞任した今井委員と中村委員を国交省側の人々として切り捨てている。さらに、1年後に辞めた田中委員、松田委員、川本委員を敵前逃亡した、松田委員は高速道路と対立するJR側の利益を代弁し、田中・川本両委員は道路公団側の事務系職員の利益を代弁していたと内情を暴露している。“利害関係者がつぎつぎと去り、大宅委員と僕だけになってから道路公団との戦いはより成果をあげたのである”と自画自賛しているのは、気持ちは分かるが、日本的風土になじまないのでなかろうか。

とにかく各委員に対する国交省道路公団からも情報操作は激しかったようだ。委員会を原則公開にするという取り決めが、各委員の妥協を妨げ、辞任にまで追い込んだように思われる。


結局、国会で審議の後、2005年に道路公団民営化がスタートした。マスコミではこの民営化は腰折れだと余り評判はよくないが、猪瀬氏は69点の‘成功‘だと胸を張っている。30〜50年後の歴史が、成功か、不成功かを決めるであろう。

どちらにしても、道路公団民営化にこぎつけたのは、強固な意志の持ち主である小泉と猪瀬の変人同士のめぐり合いによるという他ない。