母の愛情

梅雨入りらしい小雨がふっている。今月発売の「文芸春秋:7月号」で、映画監督の新藤兼人氏(95歳)が母への思いを語っている。氏が少年のころ、「一家は離散してお母さんは、みんなの食事をつくったり洗濯をしながら、ちょっとでも手がすくと田んぼへ出て鍬をふるう」という生活だったそうだ。

私は、茨城県の田舎町育ちなので、近所に住む小学校の同級生K君と一緒に、小川で鯰や泥鰌とりしたり、戦争ごっこをして楽しく遊んだものだ。K 君は母と二人暮らしで、その百姓姿の母親は田んぼで泥んこになって朝早くから夕暮れになるまで男のように一生懸命働いていた。彼女のK君を見る優しい目が忘れられない。その姿に、新藤氏の母の映像を重ねて、氏の文章を興味深く読んだ。


新藤氏の著作を、数年前に「ボケ老人の孤独な散歩:平成8年新潮文庫」で読んだことがある。この時の氏は80歳前後と思われる。ボケたふりをしながらボケてない文章で、ボケへの恐怖を語る語り口は流石にシナリオライターであると感心したものだ。
当時も赤坂のマンションで1人暮らしだったが、今も乙羽さんと暮らした同じマンションに1人で住んでいるそうだ。食事はお手伝いさんにお願いしているが、映画監督をしている孫娘さんがお目付け役に来てくれているとのこと。老人ホームに入っておられたら本当にボケてしまったかもしれない。