退院

昼前に、退院する家内と一緒に家に戻った。
10日間の入院だが、入院費、治療費の全部が思ったより安い。一桁である。大勢の医者や看護士が24時間体制で忙しげに働いていて、人件費も大変だろうと貧乏人の下世話で病院の経営に同情していたが、病室がほぼ満員なので、こんなに安くても採算はとれるのだろう。

2時過ぎころ娘が、夕食の準備のために来てくれた。久しぶりに家庭の雰囲気を味わえた。1人の方が呑気で良いような、悪いような複雑な気持ちである。「三四郎」に出てくる“偉大なる暗闇”が生涯独身を通した気持ちが分からないでもない。


帰宅して間もなく、家内は「病室で私に預けた、運転免許証、JCBカード、その他のカード類の数枚を返して欲しい」という。確かに預かった記憶はあるが、その後どうしたか完全に忘れてしまった。洋服やシャーツのポケットを隈なく探したが無い。2階の書机その他家中全ての引き出しをさがしたが出てこない。家内は「ストレスで、また胃潰瘍になってしまう」と脅す。娘も一緒になって探してくれたが何所にもない。カード紛失届けを出そうかと、諦めていた矢先に、書机の右側2段目の引き出しの前端部が2段構造になっていて、筆記具などを置く蓋の下に、日頃印鑑など大事な物を入れて置いたのを思い出した。


恐る恐るその蓋を上げてみたら、カード類が静かに鎮座しているではないか。貴重なカード類を、仮に泥棒が入っても簡単には気付かれないように用心して、ここに入れて置いたのを漸く思い出した。「あった!あった!」と、子供のように嬉し声を上げて、家内に渡した。やっと家内の胃潰瘍の再発が防げてよかった。一時はこちらが胃潰瘍になるような気分だった。