絶対音感

昨日買った「絶対音感最相葉月」(小学館、1998年発行)を読み終わる。音痴で5線譜が全く分からない私にとっては、技術的に難しい内容であったが、逆に絶対音感への憧れが面白く、一気に読ませたともいえよう。

絶対音感があるために不自由な思いをする人々がいるそうだ。移調が苦手、1ヘルツの違いが気になる、音程のつくり方に問題がある、等々。

本の最後の方で紹介された、五嶋みどり、龍、節さん母子の物語は、物語り風で興味深く読めた。以下抜書きする。


龍の父である金城摩承(マコト)は、ジュリアード音楽院のヂュレイ教授のアシスタントをやめ、ビジネスの道へ進もうとMBAの取得を目指してエール大学大学院に通っていた。節と入籍したのは龍が誕生した1988年、節39歳、摩承30歳。互いに再婚で、周囲の猛反対を押し切っての結婚だった。

初めてアスペン音楽祭で演奏したとき、アメリカの442ヘルツという基準音に合わせるのに苦労したことは、みどりは、節ほどにあまりはっきりと意識していなかった。

次は、みどりと著者の対話:
「カーテンの向こうに10人のバイオリニストが並んで弾いたとして、その子がどこの国の人かわかる?」
「わかると思う。日本人、韓国人、ロシア人、男か女かもわかる。」
―――なぜわかるのですか。
「弾き方、音楽性の違い。オーケストラでも、弦楽器の最初の1、2小節聴けばどこのオーケストラてっ分かります」
「NHK交響楽団は男性が多いから、音が丸いわね。」
「男の人のほうが音が丸い。女性はファイアーがある」
「みどりはアメリカの色も知った東洋の女っていう感じね。諏訪内昌子さんは日本の女っていう感じがすごくする」


みどりが8歳のとき演奏テープを聴き、ジュリアードに招いたドローシー・ディレイは生徒の売り出しにかけては定評があり、これまで自分の被保護者としてパルマンら一流の演奏家を世に送り出した。抱える生徒数は200人以上。当然すべての生徒を自分1人で教えることはできない。摩承のようなアシスタントを何人か採用し、かれらを通じて間接的に指導することがほとんどだった。しかし、みどりに対しては、できる限り直接ディレイが面倒をみた。遠方の演奏会も学校を休んで付き添った。


節の最初の夫は家庭を顧みない企業戦士。節の愛情はすべて子供に注がれた。節はみどりをバイオリニストにしたいと思ったのではなかった。1人で食べていける人間、お金もうけのできる人間にしたかった。子どもがなかなか理解できないような大人の感情でも、どうすれば子どもが表現できるかを考えた。歌謡曲も研究対象だった。森新一らが、あるフレーズを歌うとき、何かを訴えかけるように聴こえるのはなぜか。節は、それがテクニックの一つではないかと考え、その理由を一日中考えた。こうして節の指導によって感情表現を身につけたみどりの演奏は、大人たちを驚嘆させた。