負ける建築

昨夜録画した、「プロフェッショナル、仕事の流儀:隅 研吾」(NHK総合)を視た。創造という点で面白かった。
隅 研吾(52歳)という建築家の業績を辿りながら、脳科学者である茂木健一郎とキャスター住吉美紀がインタービューするという構成である。

隅氏は米国留学から32歳で帰国後、大手自動車メーカのショウルームのコンペで勝った。それで作った、ギリシヤ風建築の両側に、ハイテク風と廃墟をイメージするものを配した建物が、景観を破壊している、バブルの表徴などと悪評を受けたそうだ。

今は、「負ける建築」で、40位のプロジェクトを、上海など世界各地で同時に手がけている。“負ける”とは、周囲や環境および予算、材料などの制約に“負ける”ことのそうだ。スタッフも国際色が豊かで、隅氏が全体の構想を纏め、細部の設計はスタッフに任せている。

高知の譲原で、木造の旧い集会所を見て目覚めたそうだ。間もなくそこから交流施設の依頼を受け、棚田が広がっている町に溶け込んだ、地元産の杉と補強用の鉄材からなる、斬新なスタイルと周囲の風景に溶け込んだ建物を作り好評を博した。

現在、熊本にある老舗醤油醸造所からの依頼で、割り竹とガラスからなるレストランを造成中である。その経過が放映された。
コンクリートの建築は、鉄筋の間にセメントを流し込むたけでよいので造形が易しい。しかし木の建築は、強度その他に制約が多く難しいという。

隅氏は制約を楽しんでいる。創造性は制約から発生するという。制約の中にヒントがある。制約を発見することは、創造することであると、茂木氏と意見が一致した。


昔会社の研究者だった当時、創造というか発明が中々できなくて、大変苦しんだものだ。「鉄」という制約を恨んだものである。この放映を視て、環境に支配される建築と所謂‘物’とでは、創造の本質が違うらしいことに気付いた。