ドラマ「華麗なる一族」に思う

TBSで毎日曜日に放映されている「華麗なる一族山崎豊子原作)」という連続ドラマは、文芸春秋4月号で鴨下信一氏(演出家)が、その「華麗なる鑑賞法」を述べているように、大ヒットドラマになっている。

私も毎週楽しみにして視ている。今度の日曜日が最終放映ということなので、結末がどうなるかはわからないが、どうやら万俵鉄平(木村拓哉)が父大介(北大路欣也)に負けそうである。結末がどうなろうと、銀行マン、大蔵官僚、財界人、政治家(視ているかどうか分からないが)、主婦、未婚の娘らは、それぞれ自分がその立場にあったらこうするだろうと、色々の視点で考えながら見ているものと思われる。

この原作の時代背景である昭和40年初頭に、鉄鋼マンだった私は、私なりに歯がゆい思いで視ている。

このドラマの主題は、鉄平が率いる阪神特殊製鋼が優れた軸受鋼を開発して、アメリカの大手軸受けメーカから大量の受注があった。しかし軸受鋼でライバルだった帝国製鉄に原料の銑鉄の供給を止められて、やむを得ず高炉の緊急建設に乗り出した。ところが、建設中の高炉に大事故が起こって、鉄平は窮地に追い込まれる。
 
銑鉄の供給ストップがなければ、このドラマは成り立たないことになっている。

だが、軸受鋼の技術を独占することは不可能に近い。見本や製品の成分分析をすれば、組成は直ぐに分かってしまう。さらに顕微鏡などで組織を調べれば、加工、熱処理方法なども分かってしまう。ポイントは軸受けの疲労強度に悪影響を及ぼす非金属介在物の量、大きさなどであるが、これを無くするには真空脱ガス法を採用すればよいことは当時分かっていた。

基本特許を取って技術を独占することは何時の世でも至難であり、逃げ道はいくらでもある。従って、鉄平が仮に、帝国製鉄と技術協定を結んで、銑鉄の安定供給を受けるようにしていたとすれば、高炉建設の必要性ななかった筈である。当時の仲良し鉄鋼業界ではそれが可能なはずであった。

だが、それでは、ドラマにならない。野暮なコメントなので止めようかと思ったが、鉄平を生かしておきたいために、つい書いてしまった。