イノベーションは永久にデフレ傾向を生む

日銀はゼロ金利という異常な状態を脱しようと、公定歩合引き上げの機会を狙っている。一方政府は、国債費の負担増をおそれて日銀の動きを牽制しているという分かり難い綱引きが行われている。私個人の事情では日銀に勝ってほしいと思っている。それで、関連する記事に何時も注目そている。


その中で、大前研一氏が素人でも分かりやすいような時事経済解説をしている(「週刊ポスト」1.1/5号および1.12/19号の『ビジネス新大陸』の歩き方)。


以下、要点と思われる部分について、解説の原文をそのまま紹介する。
「名目GDPが大きくても同時に物価が上昇していてれば、経済活動が高まったとは必ずしもいえない。だから、物価の変動による影響を取り除いた実質GDPを使って経済活動の水準を測ることが重要で、その名目値と実質値の差額を調整する値がデフレーターである。
つまり、実質GDPを算出する時は名目GDPにデフレーターを掛けているわけだ。このデフレーターが最近ずっとマイナス?になっているのだが、それがどういう意味なのかということは、実は経済学者の間でも意見が一致していない。というか、わかっていない。
なぜ、そんなことになったのか?技術革新によって世の中が大きく変化しているのに、デフレーターの考え方が昔のままだからだ。米や野菜などは、昔も今も同じ1キロいくらで見ていればよい。しかし、デジカメなどデジタル技術の日進月歩で高性能化・低価格化している商品は、デフレーターによる調整がむつかしいし。
政府が使っているデフレーターは、たとえば、昨年300万画素だった今年600万画素になった場合、昨年と同じ商品を今年買うといくらかという考え方で値段を出しているため、半額に値下がりしたことになる。
しかい、それはもちろん正しくない。昔は平均的に300万画素のデジカメを買っていたのが今は600万画素のデジカメが普通になり、その値段が昔も今も同じぐらいだったら、デフレーターを1にすればよいのである。でないといつまでたってもデフレのままになる。技術革新が、永遠にデフレの傾向を生んでしまう。
現に政府は一方で「いざなぎ景気」を超えたといいながら、まだデフレ脱却宣言を出せないという矛盾した状況になっている。いわば“デフレーター”の罠にはまっているわけで、デジタル社会に対応した全く新しい定義をしない限り、正確な景気判断はできないと思う。

今の日本で景気判断が難しくなっている理由は、もう一つある。
家計の出費形態が変化していることだ。まず、「所有」から「非所有」に移っているものがけっこうある。たとえば、住宅は買わずに賃貸のままでずっと暮らす人が増えている。もともと持ち家に関しては、GDP統計上では持ち家の帰属家賃推計をして、消費支出として計上する。これはローン返済額ではないので、GDP統計と生活実態が合わない一つの原因になっている。
またインターネットのオークションで買った物は新品でなく、中古品の扱いになる。しかし物価指数の中にはオークションや中古品という項目さえない。
これほどオークションが盛んになり膨大な中古品が売買されるようになってくると、あらゆる物が新品の値段だけでは適正な値段を判断できなくなる。ある意味で循環型社会に入ってきたわけだが、これまた経済統計や実体経済をわかりにくくする大きな原因になっている。」



以上の記事から邪推すると、政府は実質GDPが低く出るように、そして見かけ上のデフレが収束しないように実体に沿わない統計数字を扱っているようである。