神様


7年前に(平成11年に)、たしか読売新聞に連載された、池澤夏樹の小説「すばらしい新世界」の中の次の文章を読んでから、すっかり彼のファンになってしまった。


「なぜ神様を信じなくなったかといえば、生活が楽になったからだ。人間はよくばりだから神様に願うことはいろいろあったけれど、いちばん大事なのは食べるものが充分にあって、みんなが無病息災で、災厄にもあわず暮らせるようになったということだった。
なんのこれしきと思うのは現代人のおごりだろう。
かってはこれだけでも大変なことだったことなのだ。科学技術が発達して食べるものはたっぷりと捨てるほどあり、医学の進歩で人はめったなことでは死ななくなりだからもう神様はいらない。大火や台風や地震の被害にも強くなった。 (中略)
もう神様はいらない。なぜならば人間は自ら神様になってしまったから。しかしそうなると人生の目的も見えなくなる。家内安全と子孫繁栄、それが目的でがんばってきたのに、その点を保証されてしまうと何をすればいいかわからない」


しかし、以後彼の文を読む機会がなかった。偶々先日古書店で見つけた「むくどり通信:池澤夏樹」(朝日文芸文庫)を読み終わった。周りの事物に対する、理科系らしい深い考察力に改めて感服した。寺田寅彦の再来を思わせる名随筆集である。


私の今の、浅薄かもしれない無宗教心は、上記の文章による感化が大きい。