芸術的気分




11月の半ばにしては快く暖かい日和、東京銀座へ久しぶりに行った。
銀座アスターで自由人の会の仲間と、ビールを飲みながら炒飯などの簡単な昼食を共にした。メンバーは、S君、Mz君、My君、私それに、亡くなった高校クラスメートH君の奥さん(Hさん)同じくN君の妹君(Nさん)、さらにS君の奥さん(Sさん)と計7人で、女性達もこの数年来の付き合いなので、互いに遠慮なく話し合える仲になっている。
だが何時も不思議に思うのは、SさんがS君にぴたりと寄り添って出席すること。お二人は、24時間離れ難いほどの新婚気分で今もほやほやのか、又はご主人の浮気を監視に来ているのか? お互いに遠慮のない間柄といいながら、そこまでは確かめ難く、疑問を心の中で温めてきた。家内に訊くと「そういうのは、私は絶対嫌だ」という。人それぞれである。

12時から2時間ほど雑談で過ごした後、銀座4丁目先、松坂屋裏近くの銀座清月堂画廊2階で催されている「向陵絵の会展:第一高等学校(旧制)同窓の絵画展」を見に行った。今日の会合の主目的は、S君が出品している写真に示される美しい版画(開花)を見て、芸術的な雰囲気に触れることである。他にも絵の会員による油絵などが50点ほど展示されており、客もかなりの数いて、盛会のようである。人間80歳位になると、枯れるどころか、女性の裸体の興味が湧くのか、写真のようなヌード油彩画が2点ほどあった(左側の「裸婦3態」と右側の「読書」の作者は同一人である)。


くたびれて椅子で休んでいたら、同じくくたびれたらしいHさんが隣りの椅子に坐った。東大を出た立派な長男の、嫁さんと折り合い悪くて長男家族と絶縁状態にあり、更に動物心理学者の頭の良い次女は離婚して今アメリカの大学で研究員生活をしており、その娘さん(孫娘)と同居しているという話を聞いていた。それで、近況を訊いてみた。そしたらお孫さんは1月ほど前に家を出てハイツ暮らしを始めて、今猫との二人暮らしですという。その訳は、26歳になり、OLになっているお孫さんの帰りが毎日遅いので、心配になり注意をしたら「出ていく」と言って、さっさと出て行ってしまったとのこと。「日頃の会話でも考え方が全く違うので、これで清々しました。孫は可愛いが、孫よりも娘の方が可愛いから」と言われた。ケイタイ族と80歳近くのお婆さんとでは話しが合わないのは仕方がないと、同感した。
アメリカにいる娘さん(次女)とはIP電話で長話しするほど気が合うと言う。「そのうちに日本にお帰りになるでしょう」と慰めの言葉をかけたら、「その望みは薄いです。日本に帰っても職がないから」と言われる。「アメリカが余程住みやすいのでしょう」と言ったら、「否、片田舎の大学で、大きなキャンパスの他に何も無い所のようです。年に2回ほど学会で帰国した時に、食い溜めするようです」とおっしゃわれた。Hさんは神経が太いのか、このお気の毒な状況に平然としておられる。
聞けば、結婚生活は、姑、舅(元陸軍将官)さんと同居で、二人を見送るまで姑さんに苛められ通しだったのに、よく耐えてきたというのが、H君のクラス仲間の一部で有名な話だったようである。今の猫との二人暮らしが一番幸せなのだろう。

ここを出て、毎年行っているカフェで話合うということになり、エレベータを降りた所で、ばったり此の展に出品しているO君に遭った。一緒にカフェに行こうと、そのカフェに行ったら閉鎖されていた。仕方ないので、別のカフェを探して、不良少年、少女宜しく、大の老人、老女連れ8人が恥かしげもなく、真昼間銀座裏をうろうろした。探し当てたのは、MOA CAFE Ecute という地下1階のモダーンなカフェである。夕暮れ近いのに、若い人で混んでいる。中には出勤前のホステスさんらしい、真夏でもないのに両腕を誇らしげに露わにした二人連れの美人がいた。ここでケーキセットを取って、暫く雑談を楽しんだ。4時過ぎに出て来年を約して解散した。

JR有楽町駅までの途中は、クリスマスのイルミネーションが眩しく輝いて、明るい日本の未来を表徴するかのように賑わっていた。