ウルトラ・ダラー


先日買った「手嶋龍一著:ウルトラ・ダラー」を読み終えた。
深い感激が残る。北朝鮮の100ドル紙幣偽造や拉致事件にからむ諸々の情報をつなぎ合わせて一つのドキュメンタリ小説に仕上げたものである。
荒筋は、偽造紙幣で北朝鮮ウクライナから巡航ミサイルを購入し、フランス経由で密輸入しようとして失敗するということである。
本書に対する著者のメッセージや多くの書評が、次のURL
http://www.ryuichiteshima.com/greeting.htmlに載っているので、詳細はその方に譲るとして、小説のモデルが余りに割れ割れなので、名誉毀損の訴訟を起こされるのでないかと、他人事ながら心配になった。
例を挙げれば、
アジア大洋州局長の滝澤勲は、誰が読んでも明らかに田中均外務審議官である。滝澤の父親は貧しい整骨師であって、実母は中国吉林省の延辺自治区に生まれた朝鮮族であり、対日工作員として訓練を受け大阪に送り込まれた。大阪・天王寺の中学、高校でともに過ごした親友金村が、金正日総書記の側近といわれるミスタXらしい。
一方、田中均氏は、ネットで調べたところ、父親が総合商社日商岩井(現双日)元会長とのことである。滝澤とは生まれ育ちが全く違う。

また美人で有能な官房副長官高遠希恵のモデルは、その職責から見て安倍晋三氏(現総理)に間違いない。

BBC特派員に扮した英国情報部員スチーブン・ブラッドレイが、日本語の猛特訓を受けたという鎌倉山にあった「オオムラ学校」は、今「Hill Top’s」と名を変えている「英国大使館 日本語学校」であろう。

ドキュメンタリ小説である本書には、モデル探しの面白さもある。内容の迫真力や描写の華やかさでも愉しいが、このモデル探しの点でも愉しい小説である。

高遠、滝澤、スチーブンその他の登場人物達は、競馬や料亭などで実にセレブな日常を送っている。著者は、これらの模様を細部にわたり克明に美しく描写している。だがこれは想像力のみでは無理で、ある程度、体験に基づくものであろうと、著者の経歴を調べてみた。

NHKの元ワシントン支局長であり、北海道の炭鉱主の息子で、慶応大学の学生時代のオイルショック時にアラビヤ石油株で大儲けしたそうだ。そしてNHKに入った直後は、「上司に命令されて働くのは嫌だから、給料は要らない」と言って、上司の責任問題にまで及んだ騒動を起こした末に給料を受け取ったという、羨ましい経歴の変わり者だった。要するに、若い時から、金が存分に使える生活をおくってきたのだ。その間色々なセレブな生活を見てきたであろうことは容易に想像できる。