介護付有料老人ホーム


抜けるような青空の下、介護付有料老人ホームSに体験入所したM君を訪ねるために、10時過ぎに家を出た。JR駒込駅本郷通りは賑わいなく、暫く歩いてコーヒーハウスを見つけ、ここでポルシチなどの簡単なランチを食してから、タクシーでホームSへ。

ポーチを入ったホールは、薄いピンク系の色で統一されており、明るい雰囲気であった。ホールは、ダイニングルーム、ラウンジ、カフェ、お酒の飲めるバーなどに分かれている。受付でM君を訪ねた旨伝えたところ、丁寧な応対でM君に電話で取り次いでくれた。

エレベータで降りてきたM君は、見違えるように痩せ、色も白くなっていた。僅かに1週間の入所でこうも変わるものかと驚いた。入所以来雨の日が続いて外出しなかったせいらしい。その間にS君が着いた。3人で4階のM君の個室へ行く。まるでホテルの個室のようで、勿論テレビも備え付けになっている。当然トイレ付で、10畳ぐらいの広さはあるだろう。

1年以内のショートステイの場合は食事、他種々のサービス付で、1日当たり2万1千円でよいとのことであった。部屋に運ばれたコーヒーを飲みながら暫く談笑し、記念に室内で写真をとる。
ホールに降りたら、ダイニングルームが薄暗くなっていて、大型壁掛けテレビでドラマを数人の入所者が視ていた。

外で、例によって3人で飲もうということになったが、時間が早いので、近くの古河庭園へ行こうとしたが、路地で冷たい強風に遭い、危険を感じたので諦めて本郷通りへ出た。賑やかな一角にあるカフェでコーヒーを飲んで時間を潰し、そこを4時過ぎに出て、JR駒込駅近くの「そば処―小松庵」で日本酒を飲みながら雑談をした。(後で思い出したのだが、この’そば処’は、村上春樹の小説「ノルウェイの森」で、散歩の終わりに僕と直子が軽い食事をしたそば屋かもしれない。)

今日始めて少し詳しく伺ったところでは、M君の家庭は、小説の題材になるような色々の問題を抱えて、気の毒な状況の下にあるようである。昔姨捨山という話を聞いた覚えがあるが、彼は今、現代版爺捨て山に近い状況下にいるようである。奥さんは食道癌の疑いで入院中で、同居の娘さん(一人っ子)は腰を痛めており、主人と別居中となれば已むを得まい。お金だけでは済まされない問題があるようである。悲劇の根本原因は、気の進まないお見合い結婚にあったようである。


8時頃に帰宅して、家内が沸かしておいて呉れた湯船につかり、冷えた身体を温めながら、今の所自分は仕合わせだとしみじみ感じた。