魔都の港

「魔都の港」を読み終わる。
この本は、上海の港の発展を目論みながら志半ばで亡くなった(1919年;大正8)伊吹山徳司氏の、子息四郎氏による伝記であって、明治大正時代の日本の状態や日中関係について教えられる点が多く、面白く読めた。
印象に残った箇所を以下に記録する。

第一次大戦時の対華21ヶ条(不平等条約)の押し付けにより従来の反英運動が反日抗日運動に変わってしまった。この禍根は今日まで続く。

上海の港の欠点:長江の河口は瀬戸内海のように広いが、泥砂が沈殿して、河底が高い。港は河口から60キロ遡った支流の黄浦江の岸にある。入港する船は年々大型化するのに、黄浦江の水深はその反対に浅くなっていく。
新上海港の建設:杭州湾に海港(洋山港)を作り、上海との間を31キロの六車線の橋梁(東海大橋)で結ぶ。

土地使用権:中国がつぎつぎに巨大なプロジェクトを立ち上げ、実施できるのは、国有である土地の使用権にある。土地使用権の売買は開発を目的とするものなので、購入者はその土地を開発する義務が課せられる。値上がり期待の購入はできないので、土地バブルは起こらない。
このようにして得た使用権の金は、公共事業に回すことができる。それにより社会基盤が整えば、その周辺の土地の使用権は値上がりするという良循環が生じている。日本のように開発者(例えば都)が、地主や住民と長年にわたり折衝するという手間がかからない。

リニアモータカー:筆者は、「中国が世界に先駆けて実用化したことで、日本は残念ながら中国に譲らざるをえない」と述べている。ここに元建設官僚である筆者の国費無駄使いを悔いない無責任さが見え隠れする。日本の場合、リニアモータカーは、東京駅と名古屋間を結ばなければ空路との競争に勝てないことは自明である。東京駅をリニアモータカーの始発駅とすることは不可能であろう。何十兆円という巨額の金以外に沿線付近住民との至難な折衝が予測される。

倉田百三:筆者の長姉は文学少女で、倉田に憧れ、看護婦との間に設けた一子のいる倉田と恋愛結婚したそうである。