元警察庁長官の漆間発言

gladson2009-03-10



6日の当ブログ(反戦な家づくり)でもふれた、西松建設不正献金事件の捜査に関する内閣官房副長官発言の主が、元警察庁長官漆間巌だと公表されたことで、事務次官会議を仕切る官僚トップにしては目立たなかった漆間の存在が一躍、脚光を浴びている。



公表されなくとも、常識的に考えて、政治家の官房副長官である松本純鴻池祥肇ではなく、元警察庁長官の漆間がオフレコ会見に気を許して余計なことを言ったに違いないと、目星はつく。「自民党に捜査が及ぶことは絶対ない」と松本や鴻池が語っても、記者はいちいち記事にしないだろう。



警察庁長官検事総長の関係を考えれば、不正献金事件捜査に関するその発言の重大さは、よくわかる。



まず、組織だが、警察庁は総理大臣のもとで6人の委員から構成される国家公安委員会によって管理される。都道府県の警察は地方公務員だが、警察庁は大半が国家公務員だ。



検察庁は政治からの一定の独立性を保持しているとはいえ、法務大臣の指揮下にある捜査機関である。検事総長最高検察庁を頂点に、高検、各都道府県の地検というピラミッド型の指揮命令系統ががっちりと組まれた組織だ。



刑事たちが検事に相談をしながら捜査を進める姿は、テレビドラマでよく見られることだが、刑事訴訟法においては、検察の警察に対する指揮権はない。ただ、現実には、起訴できない事態を避けようと刑事が検事に報告して意見を聞くことが多いため、検事が捜査の指揮をする形になっている。



ならば、話を元に戻して、組織のトップである警察庁長官検事総長の関係はどうなのかというと、「国家公安委員会検事総長と常に緊密な連絡を保つ」とされている。国家公安委員会の実務は警察庁が担っており、実質的には警察庁長官検事総長は「緊密な連絡」を取り合うことになっているのである。



現在の国家公安委員会の顔ぶれは、内閣府特命担当大臣佐藤勉自民党衆院議員)を委員長とし、元外交官の佐藤行雄、JR東海会長の葛西敬之、人類学者の長谷川真理子ら5人の委員で構成されている。



委員会の仕事は、警察行政が民主的で、中立的であるよう監督することだが、実際には委員長が召集する会議において審議をするだけであり、実務は警察庁が握っているといえるだろう。



漆間は2007年8月に警察庁を退官し、2008年9月、麻生内閣発足とともに内閣官房副長官に登用された。警察庁長官出身者が官房副長官に抜擢されるのは35年ぶりのことで、各省の政策に通じているわけではなく、各省事務次官を束ねる役どころとしてふさわしいのかと訝る声も当初からあった。



そのころ噂されたのは、小沢一郎への対抗心をむき出しにしていた麻生首相が、小沢や民主党関係のネガティブな情報を捜査ルートから得るための秘密兵器として漆間を近くに置いたのではないかというものだった。



そういう背景があるだけに、西松建設不正献金事件に関して漆間が「自民党に捜査が及ぶことはない」との趣旨の発言をしたという今回の報道は、種々の憶測や疑惑を呼んで当然だった。



いまのところ、漆間はそれについて「記憶がない」としているが、酒席で話したわけでもなく、20人ほどの記者との懇談会での数日前の発言を覚えていないというのは、誰が考えても不自然であろう。



そんな言い逃れをすると、追及せざるを得ないのが記者のサガというものだ。むしろ、発言そのものは認め、「一般論として申し上げたが、立場上、軽率だった」と言うほうが、漆間にとってはよかったのではないか。



麻生首相が、「(報道機関の)誤報だ」という参院予算委での答弁を撤回した件は、毎度のクセが出ただけであり、いまや、麻生さんらしい“ご愛嬌”とあきらめるほかはない。 (敬称略)