映画:ラヴェンダの咲く庭で

gladson2009-02-02

1936年、イギリス、コーンウォール地方。ヨーロッパでは、歴史的な大きな出来事が起ころうとしていたが、ジャネット(マギー・スミス)とアーシュラ(ジュディ・デンチ)の姉妹はいつもと同じように静かな日々を過ごしていた。
そんなある


海岸沖に住む老姉妹のモトに、突然嵐に酔ってもたらされた若き漂着者。若く美しい彼に淡い思いをはせる妹アーシュラ。そんな妹をあきれつつも温かく?見守り、時にはなじる姉。脚を折り重体の彼を姉妹はかいがいしく看病し住まわせる。
夢中になるアーシュラ。そんな妹をたしなめる姉、姉への確執と妬みをぶつける妹。

ぶつかり合いなじりあう彼女達を見ていると、初めて「ぶっちゃけ」喧嘩が出来たしまいのような気がして、私は苦笑いしながらも微笑ましい。
そんな彼がバイオリンの名手であることがわかり、偶然通りかかり彼の音を見出した若い女。彼女は世界的に有名なバイオリニストの妹であり、彼の才能を開花させようとモーションをかける。そんな彼女をアーシュラが面白くなく思うのは当然で、お決まりの展開・・・手紙を隠すは燃やすは、彼女を追い払うは・・・なんだか少女漫画のようだ。
しかし彼はそのことを知りアーシュラを攻める。

未亡人である姉と違って、おそらく彼女アーシュラは結婚も恋すらしていない。
みっともない、情けない、はしたない、みすぼらしい・・・みぐるしい。
そんな風に自分を卑下し恥じる彼女はなんとも愚かしくかわいそうであり愛らしい。
この一幕を経て、初めてこの姉妹は一つの相互理解を見ているように思う。
 さておき、彼はある日突然にロンドンへ・・・都市へと、世界へと向かってしまう。
バイオリニストとしての栄光への道を歩むべく、巣立ってしまう。
とまあ、あらすじはこんな感じだ。 詩的に?言うと

田舎の老人の下に突然舞い降りてきた傷負いの都会の天使が、本のひと時羽を安め、
また再び都会へ、世界へ旅立ってしまう。田舎には彼を想い偲ぶ老婆のみが残された。
っていう展開。ありがち、解りやすいストーリーではある。
たいていコレに記憶喪失とか出自の問題とかが関係してくるんだけど、コレにはそこまで「いかにも」な展開はない(笑) 観ている側としてはどう考えたってこの年の差でこの恋が成就するはずもない。物語のラストは予想通り・・・だが、それでも私は涙した。

ラスト。数年後?彼から「今度ラジオで自分の演奏が放送されるから聞いて欲しい」という手紙が届く。老姉妹2人は彼の演奏を聴くべくしてコンサートホールへ。
彼と彼女を取り巻いてきた村人達もラジオの前に身を構える。
彼の演奏が、始まる。 美しく物悲しく、胸の締め付けれられるような美しい旋律が流れる。
本当に、美しいのだ。
映画『砂の器』を思い出す。あの、ピアノとオーケストラの交響曲をバックに流れ続ける映像、春夏秋冬、主人公と父親の生い立ちとすさまじい差別と貧困の旅、その苦悩と親子の愛情が音楽に喚起されよみがえるあのシーンだ。
あれと同じ、そう思う。
本当に物悲しく切ないヴァイオリンの旋律が、彼女らと彼との出会いから過ごした日々、彼の笑顔、彼の仕草、楽しい時と悲しいとき、そして別れ。
そうしたシーンが、彼と彼女らと村人達の顔に重なり重なり、移り進む。
音とともに感極まる。見事な演出だと感嘆した。
なんと言うこともない物語かもしれない。
ありふれた展開かもしれない。
それでも、私はこの映画を観て涙した。感極まる思いをしたのは久しぶりなのだ。