サウンド・オヴ・ミュージック:次女が語る一家の物語

サウンド・オヴ・ミュージック」は、私の最も好きな映画である。ビデオやDVDで、今でも全てのシーンがすぐ頭に浮かぶほど、何回視たことか。内容はごく自然でほとんど無理がない。第二次大戦直前の緊迫した欧州が背景にある。ジュリー・アンドリュースが演ずる元修道女マリアの自伝をもとにして制作されたというので、馬鹿正直な私は実際にあった事実を脚色して映画化したものと思い込んでいた。
それにしても、最後の一家が山を越えて永世中立国スイス?に逃げるシーンが信じられなかった。ザルツブルグからスイス国境までは地図で調べても可なりの距離がある。幼い子供を抱えて山越えができるのか?食料は?追っ手は?と疑問が尽きない。

自伝の翻訳があるという話を聞いたので、二年ほど前にAmazonから上巻のみを取り寄せて読んでみた。

マリアは人生での決定を全て神に伺って行うという熱心なクリスチャンで、(元修道女だから当たり前であるが、)無信仰の私にはとてもついて行けなかった。上巻の内容はザルツブルグを離れる前に終わっていた。以上のように実在の狂信者マリアに不信を感じたので、下巻は買わないで、山越えの経過はどうでもよいことにした。美しい夢物語としてすませた方が人生は楽しいと考えた。

今日午後、たまたまNHKのBS2のチャンネルを押したら、「サウンド・オヴ・ミュージック:次女が語る一家の物語」を放映していた。92歳の次女マリアの語り形式で一家の真実の歴史を紹介していた。

上巻でも分かったことであるが、映画と大きく違う点は、フォン・トラップ大佐と(孤児)修道女マリアの結婚は1927年、即ち昭和初期である、さらに1929年の大恐慌で大佐は破産し、一家は初め下宿家賃、その後ヨーロッパ各地でのコンサート・ツアで生計を立てていた。1938年のヒットラーオーストリア併合により、愛国者である大佐は、脱国を考えなくてはならなくなる。
執事のハンスはナチ党員で、一家の動静を密告する義務があった。それで彼は、「(彼がサービスする)食事の時には政治の話をしないように」と進言していた。更にアメリカのマネージャーから米国コンサート・ツアの話があった頃、間もなく国境が閉鎖されると教えてくれたそうだ。それのため一家は脱出を決断して、鉄道でイギリスに渡り、さらに船で1938年10月にアメリカに無一文で着いたという。

危険な山越えは無かったのである。これで下らない謎がやっと解けた。